「働き方改革」のための“定額残業代”導入の注意点
コラム
2019/12/01
定額残業代のメリットは
定額残業代は例えば
■給与計算の担当者を雇うことのできない小規模な企業にとって
給与計算の負担を軽減できる
■季節によって閑散期のある業種でも月例給与で一定の残業代を保障できる
■なるべく定額残業代の範囲で仕事を終わらせるように―というメッセージになる
などのメリットがあります。
「働き方改革」のために残業削減に取り組んでいる企業にとっても、残業削減の努力をした従業員の給与を大きく減少させないという効果があるでしょう。
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裁判で見えてきた条件は
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労働基準法が割増賃金として残業代の支払いを義務付けているのは、過度な長時間労働への抑止効果などを目的としています。この割増賃金について、その全部または一部を一定時間分の定額残業代として支払うことは、それ自体に問題はありません。しかし、定額残業代を導入する企業が増え、トラブルも増えてきました。その結果、裁判結果から次のような定額残業代の適否の判断基準が見えてきました。
①定額残業代の額や何時間相当かを労働者に示していること
何時間に相当するかを示すのは、実際の労働が定額残業代の時間を超えているのか、超えていないのかを労働者が確認できるようにするためです。
何時間に相当するかを示すのは、実際の労働が定額残業代の時間を超えているのか、超えていないのかを労働者が確認できるようにするためです。
②実際の時間外労働による残業代が定額残業代を超えた場合はその差額が精算されていること
実際の時間外労働による残業代が定額残業代を超えた場合であっても、その差額が精算されていないときには、定額残業代が形式的なもので、もともと残業代を支払う意思がなかったと判断されています。
実際の時間外労働による残業代が定額残業代を超えた場合であっても、その差額が精算されていないときには、定額残業代が形式的なもので、もともと残業代を支払う意思がなかったと判断されています。
③定額残業代と基本給などのバランスが適切であること
例えば、定額残業代を除く給与では最低賃金とほとんど変わらなくなるなど、少ない基本給と多すぎる定額残業代の場合は、人材募集で給与総額を多く見せながらも、実際は過重労働を前提とすることを隠しているとして不適切と判断されることがあります。
例えば、定額残業代を除く給与では最低賃金とほとんど変わらなくなるなど、少ない基本給と多すぎる定額残業代の場合は、人材募集で給与総額を多く見せながらも、実際は過重労働を前提とすることを隠しているとして不適切と判断されることがあります。
④定額残業代が健康状態の悪化を招くものでないこと
定額残業代が何時間の時間外労働にあたるかを設定する際、通常は実労働がどれくらいになるかを予想して、これを上回る時間の定額残業代とするものです。そうしなければ、定額残業代を導入する意味がないからです。
しかし、例えば定額残業代が「80時間相当の額」であるなどの場合、もともと長時間労働を前提としていて、労働者への健康的配慮義務や公序良俗に反するとして、制度を認めなかった裁判例があります。定額残業代が何時間の時間外労働にあたるかを設定する際、通常は実労働がどれくらいになるかを予想して、これを上回る時間の定額残業代とするものです。そうしなければ、定額残業代を導入する意味がないからです。
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残業代不払い制度にしてはならない
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ここまで、定額残業代の適否の判断基準を見てきましたが、昨年7月、最高裁がこれらと異なる判決をした事件がありました。
事件は、薬剤師として勤務していた者が残業代の未払いを争ったものですが、何時間分の時間外労働に当たるものかを労働者に示さずに支払っていた業務手当(定額残業代)を適法と認め、労働者の請求を一部容認した原判決を破棄しています。
そうすると、前述の基準①を欠く制度も許されるように思われますが、この事件では、定額残業代が月28時間相当のものであること、実際の時間外労働が10時間~30時間程度と大きく乖離していないことなどから適法と認められたようです。
裁判の結果は、具体的諸事情によって異なることからも、導入を考える企業は残業代のいらない便利な制度などと考えるのではなく、労働者の健康などを視野に健全な制度設計・運用を心掛けてください。
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